ピュアシアター開催の概要

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これまでフリップフラッパーズのファン主催による上映会(いわゆる自主上映会)を2回開催しました。このような上映会を開くこと興味を持たれている方もいらっしゃるようなので、その時の運営面の事項をまとめてみました。

開催の経緯

フリップフラッパーズは、TV放映後終了後の2017年2月に映画館「シネマート新宿」で上映が行われました。
その際は全13話を3週間に分割して週替わり上映され、特典として実際に使われた原画や動画が配布された点でも注目されました。定員60人のシネマート新宿「スクリーン2」で連日立ち見が出る盛況を受け、最終日2017/2/24(金)はより大きな「スクリーン1」での上映が行われたのでした。
私はその公式上映(私たちが開催した「非公式」上映会と混同しないよう便宜上そう呼ばせて頂いています)の時まで、上映に通う程度に気になっていたとは言えそこまで深く入れ込んでいたというわけでもなかったのですが、TVシリーズのアニメを劇場で見る体験を通して沼の深みにはまり込んでいったようなものでした。
その後で他のアニメ作品でファン主催の上映会が企画されていることがフリフラファンの間で話題になった時、同じようなことがフリップフラッパーズでもできるかもと考え始めたのが開催のきっかけとなりました。


法律面

調べてみればアニメ作品の上映会は各所で行われており、一部は許諾を受けて上映される場合もあるようですが大半は無許諾の上映会で、そのような無許諾の上映会のうち著作権に配慮しているものは著作権法第38条第1項に基づいて行っていることがわかりました。

非営利上映

その著作権法の条項は次の通りです。
「公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。」
簡単に言えば非営利で無料であれば上映できるということになります。そこまではわかりやすいのですが、それ以外のことも含めて著作権法に詳しい弁護士に相談しました。

相談した事項

弁護士に相談したいろいろな内容を以下に簡単にまとめました。
単純に非営利上映だけ行う場合は法的にはクリアといってよいと思われますが、個別の事例への適用については著作権に専門家に相談することをお勧めします。

課題 弁護士の意見やピュアシアターでの実施状況
映像作品の本編や特典映像等の上映 著作権法第38条第1項に基づき可能です。
市販BD等の使用 問題なく、また仮に上映等での使用を禁止する旨の記載があったとしてもそれによって著作権法第38条第1項が無効化されることはないと考えられます。
二次創作作品・MAD作品の上映 上映そのものは同じ条項でカバーされるものの、二次創作の制作段階の問題により法的に問題がないわけではありません。そのためピュアシアターでは比較的こっそりと扱っています。
原画・動画の展示 基本的に問題ありません。なお原画や動画は著作権法は美術の著作物の原本に該当します。
ウェブサイトやチラシ等での作品名称の使用 仮に商標登録されていた場合含め名称を記載することは問題ありません。単なる名称の使用と違いロゴ等の使用は著作権法上問題があります。
チラシ等での本編等の画像の使用 複製権の侵害となります。一般的に無許諾の使用は許容されない可能性が高いと思われるので使用していません。
チラシ等でのファンアート等の使用 同様に複製権等の侵害となりますが、同人イベント等での事例を参考にファン制作のイラスト等を使用しています。
営利とは 例えば、同人誌・同人グッズ等の物販、それらの紹介、それらを掲載するウェブサイトの紹介等、企業等の名称をもって開催する事、その他直接・間接に主催者の利益となること、等が営利にあたる可能性があり、これらのことを上映に関して行えません。
上映作品の撮影 撮影そのものは私的利用の範囲であれば著作権法上の私的複製の範囲となりますが、それをtwitter等に投稿したりすると著作権侵害となり、またそれを許容すると上映会自体もその幇助となる可能性もあります。ピュアシアターでは一般的な劇場上映の状況に鑑みて撮影は禁止としています。

著作権法第38条第1項に基づく非営利上映に際して権利者に何らかの連絡・確認をすべきかという点について、弁護士の意見としては連絡はしないのが良いということでした。
上映が可能であることは法律によるもので権利者の見解に左右されないので、連絡することによる益はない一方、法律上の効力はともかく権利者として禁止する、または上映はしないことを希望すると表明することは可能なため、仮にそういう主張をされると、法律上はそれによって上映ができないことはないにしても判断の難しい問題が発生する可能性があります。
また、同一の弁護士への相談になりますが、別の方による上映会についての相談事例が紹介されているページがありますのでそちらも参考になります。 http://domedeshow.com/legal/screening/

さて、上記からわかるように、ピュアシアターで行った活動のすべてが法的にクリアというわけではなく、場合によっては問題となる可能性がある要素も含まれています。
その一方で法的に問題があろうとなかろうと、具体的に何らかのトラブルになる事のリスクや対策についても専門家に相談しておくと良いと思います。

許諾上映の試み

上記の話とは別に、著作権法第38条第1項に基づく上映ではなく許諾を受けての上映はできないかとも考えてBDの発売元であるハピネットピクチャーズに上映会でのBD使用許諾について問い合わせたのですが、個人向けの許諾はしていないとのことで実現しませんでした。
仮に許諾されたとしてどのような金額感になるか全くわからないのですが、当時は実現できたとしても1回限りとの心づもりでしたので、仮に想定を相当に上回る費用感であったとしてもそれを負担して開催するのはありではないかなどとも考えてはいました。もっともそのような場合だと複数回開催は難しかったかもしれませんけれども。
映画作品などでは容易に許諾を受けて上映ができる作品もあるようです。ただアニメTVシリーズの上映会となると開催数も少ないでしょうし、個別に許諾事務を行うだけのメリットが少ないだろうとも思うのですが、TVシリーズでも将来的には一定の条件下で許諾してもらえるようになったら良いのにと思いはします。


費用面

ピュアシアターの会場「彩の国ビジュアルプラザ映像ホール」は公営施設なので同等の民間施設と比較してかなりの低料金になっています。
ピュアシアターでの会場費用はおおよそ1回目が8万9千円、2回目が8万3千円でした。これは会場使用料と設備使用料の合計ですが、時間帯や使用設備の違いで料金にいくらか違いがでました。
参考までに会場以外の費用としては、パンフやチラシの印刷費で7千円程度、また各イベントスタッフが作ってくれた記念品や展示物はそれぞれ作った方が数千円程度の費用負担をしてくれています。実際にはそれぞれの直接的費用以上に手間暇や間接的費用も掛かっているようには思います。

費用分担

開催について少しずつ相談していたころからオフ会などで知り合った方から開催費用を分担したいという提案を頂いていたのですが、法律上の要件との兼ね合いはどうなるのかが問題でした。
弁護士の意見としては、複数人の主催として費用分担することは可能、ただしその人たちは実態として主催者である必要があり、金銭の授受が上映の対価であると取られかねないような方法ではならないということでした。まずtwitter経由で会ったことのある知り合いという程度では不特定多数の観衆と客観的に区別ができないため共同主催者の住所氏名等本人を特定できる情報を把握していること、また主催者の人数は基本3名程度以下とするのが望ましいと考えるとのことでした。
ただ、もしも権利者等と法律上の争いが発生したような場合まで考えると、共同主催される方には単なる費用分担というレベルを大きく超えて負担が発生する可能性も否定できないため、上記の事項や実施内容を説明し納得頂いたうえでご参加頂いています。

お布施

これらの上映会時にはBDを1セットずつ購入したのですが、あれは何なのかと聞かれることもあります。あれは実のところ上映をするのに必要な事項とは全く関係なく、ただこういった機会に少しながらでも制作者への感謝の気持ちを表せればというくらいのつもりでして、オタク界で言うところのひとつのお布施のようなものです。
ピカピカの新品BDから上映できたらなんか気持ちいいじゃない、なんて思っていたのですが、1回目の時の音声トラブルを考えると再生実績のないメディアを使うのも考え物かも知れません…ご注意下さい。(まあメディアの個体差によるものというのもあまり考えにくいような気もするのですが…)


おわりに

上映会ではせっかくの機会だからと思ってなんだかんだ詰め込み過ぎた面もあるかもしれないですが、ああいった空間で観ることで得られる没入感は他では得難いもので、映像も音響もストーリーも作品の全てをより深く楽しめる機会だったと思います。何よりも自分が観たくてやっている上映会で毎回新たな発見もあります。なのでやること自体は同じ事の繰り返しになりますが1年後にもう1回はやってみようと考えています。

さて、次の記事では上映会実施の参考になりそうな費用や設備の個別事項をまとめています。